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最高裁判所第一小法廷 昭和26年(あ)634号 決定

主文

本件上告を棄却する。

当審における未決勾留日数中三八〇日を本刑に通算する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

被告本人の上告趣意第一点について。

(1)所論副検事の供述調書の記載変更の申立は、既に適法に作成を了した調書記載の自白を爾後の訊問に際し変更すべきことを求めたものであること、その主張自体に徴し明らかであり、かかる申立が刑訴一九八条四項にいわゆる増減変更の申立に該当しないこと勿論である。この点に関する原判決の説示は洵に正当である。また第一審判事が公判廷において被告人に対し自白を強要したとの事実は記録上これを窺うに足る何等の証跡もない。(2)所論の事由は単なる犯罪構成要件に属する事項の否認に過ぎないものであり、もとより法律上罪の成立を妨げる理由又は刑の加重減免理由となる事実に該当しないことは多言を要しないところであって、この点に関する原判決の説示は正当である。(3)の所論は事実審の裁量に属する証拠調の限度の裁定又は証拠の取捨判断を論難し結局その事実認定を非難するに帰着する。また(4)の所論は原判決言渡後の事由を主張するものであり司法行政監督上の問題としては格別、上告理由たるべき原判決の法令違反には関係なきものといわざるを得ない。のみならず所論のような事由は、原判決を破棄する理由となすに足りないと解すべきことは、当裁判所の判例の屡々判示したところである。これを要するに、所論は憲法違反を云為するけれども、その前提を欠くものでなければ、その実質において単なる訴訟法違反を主張するに外ならないものであって、いずれも刑訴四〇五条所定の上告理由に該当しない。

同第二点について。

所論は結局事実審の裁量に属する刑の量定を非難するに帰着し上告適法の理由に当らない。そして本件では刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

弁護人村上富士太郎の上告趣意について。

第一点の所論は、原審が保釈申請を却下し、未決勾留を継続したことを非難するに止まる。所論の事由だけでは、原判決に法令違反ありということはできない。また第二点の所論は結局事実審の裁量に属する刑の量定を非難するに帰着する。されば所論は、憲法違反を云為するけれども、実質は刑訴四〇五条所定の上告適法の理由に該当しない。

よって刑訴四一四条三八六条一項三号一八一条一項、刑法二一条に従い主文のとおり決定する。

この決定は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野 毅 裁判官 斎藤悠輔)

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